絶滅危惧種をどう見つける?調査・モニタリングの具体的な方法
なぜ絶滅危惧種の調査が必要なのか
地球上には様々な生物が生息しており、それぞれが複雑な生態系の中でつながりを持ちながら暮らしています。しかし、人間の活動などによって、多くの生物が絶滅の危機に瀕しています。こうした絶滅の危機にある日本の生物を知り、守るためには、まず「今、どこに、どれくらいの数が生息しているのか」「生息環境はどのような状態なのか」といった正確な情報を把握することが不可欠です。
この情報を得るために行われるのが、絶滅危惧種の「調査」や「モニタリング」です。調査は特定の期間に現状を把握すること、モニタリングは継続的に状況を追跡することを指します。これらの活動は、絶滅危惧種のリスト作成(環境省レッドリストなど)の基盤となり、どのような保護対策が必要かを検討するための重要な判断材料となります。
伝統的な調査方法
絶滅危惧種の調査は、古くから様々な方法で行われてきました。現在でも、多くの調査でこれらの伝統的な手法が用いられています。
- 目視観察・聴き取り調査: 研究者や調査員が直接現地に出向き、対象の生物を観察したり、鳴き声や痕跡(足跡、食痕など)を探したりする方法です。鳥類や大型哺乳類、視認しやすい植物などの調査で広く行われています。特定の時間帯や季節に集中して行われることが多いです。
- 捕獲調査: 生物を一時的に捕獲し、個体数を数えたり、体の特徴を記録したりする方法です。昆虫や魚類、両生類、小型哺乳類などの調査で行われます。捕獲した個体に標識をつけ、再捕獲した際に個体の移動や成長を把握することもあります。生物への影響を最小限にするため、専門的な知識と技術が必要です。
- 聞き込み調査: 地元の人々や関係者から、特定の生物の目撃情報や生息に関する歴史的な情報を集める方法です。長期間にわたる生息状況の変化を知る上で有効な場合があります。
これらの方法は、対象となる生物の生態や生息環境に合わせて使い分けられます。多くの知見が得られる一方、広い範囲を調査するには多くの時間と労力が必要となる場合があります。
テクノロジーを活用した新しい調査方法
近年、技術の発展により、より効率的かつ詳細な情報を得られる新しい調査方法が登場しています。これらの技術は、伝統的な手法と組み合わせて活用されることが増えています。
- 自動撮影カメラ: 特定の場所にカメラを設置し、センサーが動物の動きや熱を感知すると自動で撮影を行う装置です。人目を避けて行動する哺乳類などの調査に非常に有効です。どのような動物がいつ頃、どの場所を通るかといった情報が得られます。写真に映った個体の模様などから、個体識別ができる場合もあります(図1参照)。
- 環境DNA (eDNA) 分析: 生物が環境中(水や土壌など)に残したDNAを採取し、分析することで、その生物がその場所に生息しているかどうかを確認する方法です。例えば、川の水を採取して分析することで、そこに生息する魚の種類を知ることができます。生物を直接捕獲する必要がないため、生物へのストレスを減らし、広範囲の調査を比較的容易に行える点が注目されています。
- GIS(地理情報システム): 地理的な情報(土地の形状、植生、建物の位置など)と生物の生息情報を重ね合わせて分析するシステムです。絶滅危惧種の生息地の範囲や、生息に適した環境がどこにあるかを地図上で視覚的に把握・分析するのに役立ちます。生息地の変化予測などにも活用されます。
- リモートセンシング: 衛星や航空機、ドローンなどから地上を観測し、データを取得する技術です。広範囲の植生の変化や森林の減少といった生息環境の大きな変化を捉えるのに適しています。特に、人が容易に立ち入れない場所の環境把握に有効です。
- 音響モニタリング: 特定の場所に録音装置を設置し、生物の鳴き声や音を自動で記録する方法です。主に鳥類やコウモリ、昆虫などの調査に用いられます。記録された音声を分析することで、そこに生息する生物の種類や活動時間などを知ることができます。
これらの新しい技術は、より広い範囲を効率的に調査したり、これまで調査が難しかった生物の情報を得たりすることを可能にしています。
市民科学の広がり
最近では、研究者だけでなく、一般市民が調査に協力する「市民科学」の取り組みも増えています。例えば、特定の生物の目撃情報をインターネット上のデータベースに登録したり、指定された場所で簡単な調査を手伝ったりするなど、様々な形で市民が参加しています。スマートフォンのアプリなどを活用して情報収集を行うことも可能です。
市民科学は、広い範囲で大量の情報を収集できる可能性を秘めています。集められた情報は、専門家によって検証・分析され、絶滅危惧種の保全に役立てられています。
調査・モニタリングの課題と重要性
絶滅危惧種の調査・モニタリングには、多くの時間や費用がかかること、専門的な知識や技術を持つ人材が必要であることなど、様々な課題があります。また、新しい技術も万能ではなく、それぞれの方法に得意なことと苦手なことがあります。
そのため、一つの方法に頼るのではなく、伝統的な手法と最新技術、そして市民科学なども組み合わせながら、対象となる生物や調査の目的に最も適した方法を選択することが重要です。
絶滅危惧種の正確な生息状況を知ることは、彼らを絶滅から救うための第一歩です。継続的な調査とモニタリングを通じて得られるデータが、効果的な保護対策の立案と実施を支えています。
まとめ
日本の絶滅危惧種を守る活動は、彼らがどのような状況にあるかを知るための調査・モニタリングから始まります。目視観察や捕獲といった伝統的な方法に加え、自動撮影カメラ、環境DNA分析、GISなどの新しい技術が活用されています。また、市民が調査に参加する市民科学も広がりを見せています。
これらの多様な調査方法は、絶滅危惧種の生息状況や生態に関する貴重な情報をもたらし、保全活動の基盤となっています。正確な情報を得るための継続的な取り組みが、日本の豊かな生物多様性を未来に引き継ぐために不可欠です。