日本の絶滅危惧な両生類・爬虫類:水辺や森で何が起きているのか
はじめに:身近な生き物たちにも迫る危機
日本の豊かな自然には、様々な生物が暮らしています。鳥や哺乳類だけでなく、水辺や森には多くの両生類や爬虫類がひっそりと生息しています。カエル、サンショウウオ、ヘビ、トカゲといった生き物たちは、私たちの身近な環境にも適応して暮らしてきました。しかし、彼らの中にも、絶滅の危機に瀕している種が少なくありません。
両生類や爬虫類は、地球上の多くの場所で生息していますが、特に環境の変化に敏感な生物群として知られています。例えば、多くの両生類は皮膚呼吸を行い、皮膚が乾燥すると生きていけません。また、水中で卵を産み、幼生期を水中で過ごす種も多いため、水質の変化や水辺環境の悪化が直接的な影響を与えます。爬虫類もまた、特定の温度や湿度、生息地の構造に依存する種が多く、環境の変化が生存を脅かす要因となります。
この解説では、日本の両生類・爬虫類に焦点を当て、なぜ彼らが絶滅の危機に瀕しているのか、そしてどのような種が危機に直面しているのかについて分かりやすくご紹介します。
日本の両生類・爬虫類とは
日本列島には、固有種を含む多様な両生類と爬虫類が生息しています。
両生類
カエル、サンショウウオ、イモリなどが含まれます。これらの生物の多くは、幼生期を水中で過ごし、鰓(えら)で呼吸しますが、成長すると肺呼吸と皮膚呼吸を併用するようになり、陸上でも活動します。湿度の高い環境や水辺を必要とすることが多いのが特徴です。
爬虫類
ヘビ、トカゲ、カメなどが含まれます。ほとんどの種が肺呼吸を行い、体表は鱗に覆われています。両生類と比較すると乾燥に強い種が多いですが、種類によって砂漠から森林、水辺まで様々な環境に生息しています。日本にはニホントカゲ、ニホンカナヘビなどの一般的な種から、特定の島にしかいない希少な種まで多様な種類がいます。
これらの生物は、昆虫や小動物を食べることで特定の生物の数を調整したり、より大きな動物の餌となったりするなど、生態系の中で重要な役割を担っています。
危機に瀕している日本の両生類・爬虫類の例
環境省が作成するレッドリストには、日本の両生類や爬虫類から多くの種が記載されています。ここでは、いくつかの例を挙げます。
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両生類:
- トウキョウサンショウウオ:本州の主に太平洋側に分布するサンショウウオです。里山の水田周辺や森林にある水場で繁殖しますが、こうした環境が減少・悪化していることで個体数が減少しています。(写真はこのサンショウウオの成体です)
- オオサンショウウオ:日本の固有種で、世界最大の両生類です。清流に生息しますが、河川改修や生息地の破壊、外来種との交雑などが問題となっています。
- アマミイシカワガエル:奄美大島と徳之島に生息する美しいカエルです。森林伐採や開発による生息地の破壊、外来種による捕食などが脅威です。
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爬虫類:
- ニホンイシガメ:日本の固有種のカメです。河川や池に生息しますが、河川環境の変化や外来種であるアカミミガメ(ミシシッピアカウミガメ)との競合や、ペット目的の乱獲などが問題となっています。(図1はニホンイシガメの分布を示しています)
- ミヤコカナヘビ:宮古列島の一部にのみ生息する小型のトカゲです。生息地が非常に限られているため、少しの環境変化や外来種の侵入が大きな影響を与えます。
- ゼニガメ:ニホンイシガメの幼少期の呼称として使われることもありますが、クサガメなど他のカメの幼体を指すこともあります。これらの日本の淡水性のカメ類全体が、生息地の減少や外来種の影響を受けています。
これらの種以外にも、多くの両生類や爬虫類が様々なレベルで絶滅の危機に直面しています。
なぜ両生類・爬虫類は危機に瀕するのか:主な原因
日本の両生類・爬虫類が絶滅の危機に瀕している主な原因は、他の多くの絶滅危惧種と同様に、人間の活動によるものが大きいです。
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生息地の破壊・劣化・分断:
- 森林伐採や農地開発、宅地造成などにより、彼らの住む場所や繁殖場所が失われています。
- 河川改修やダム建設は、カメやサンショウウオが生息する水辺環境を大きく変えてしまいます。
- 道路建設などにより、生息地が分断され、移動できなくなることで、個体群が孤立し、絶滅のリスクが高まります。特に移動能力の低い両生類や一部の爬虫類に深刻な影響を与えます。
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環境の変化:
- 農薬や生活排水による水質汚染は、水中で過ごす両生類の幼生や、水辺に依存するカメなどに致命的な影響を与えることがあります。皮膚呼吸を行う両生類は、特に水中の化学物質の影響を受けやすいとされます。
- 地球温暖化による気温や降水パターンの変化も、特定の温度・湿度を必要とする両生類・爬虫類の生息に適さない環境を作り出す可能性があります。
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外来種の影響:
- アライグマやブラックバス、ウシガエル、アカミミガメといった、人間が持ち込んだ外来種が、日本の両生類・爬虫類を捕食したり、餌を奪ったりすることで、在来種の数を減らしています。(図2は特定外来生物に指定されているウシガエルの生態を示しています)
- 外来種との間で病気が広がることもあります。
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乱獲:
- 珍しい両生類や爬虫類が、ペットとして国内外で取引されることがあります。過度な捕獲は、野生の個体数を減少させる大きな要因となります。
保護活動の現状と私たちにできること
日本の絶滅危惧な両生類・爬虫類を守るためには、様々なレベルでの取り組みが行われています。
- 法的な保護: 種の保存法に基づき、特定の種を捕獲や取引から保護する取り組みが行われています。また、国立公園や国定公園などの自然保護区で、彼らの生息地を守る活動も行われています。
- 生息地の保全・再生: 開発計画を見直したり、失われた水田や湿地環境を復元したりする取り組みが行われています。道路の下に生物が安全に移動できるトンネル(アニマルパス)を設置するなどの工夫も行われています。
- 繁殖・放流: 危機的な状況にある種に対して、人工的に繁殖させて自然に戻す活動(域外保全と再導入)が行われることもあります。
- 外来種対策: 外来種の防除や、むやみに野生に放さないように啓発する活動が行われています。
私たち一人ひとりにも、これらの生物を守るためにできることがあります。
- 身近な自然に関心を持つ: 近所の川や森、水田などにどのような生き物がいるのかを知ることから始まります。彼らの環境がどのように変化しているのかに気づくことが大切です。
- 外来種を広げない: 飼育しているカメやカエルなどを安易に野外に放さないことが重要です。
- 環境に配慮した行動: ごみをポイ捨てしない、節水に心がけるなど、身近な環境負荷を減らす行動も、間接的に両生類・爬虫類の生息環境を守ることにつながります。
- 正しい知識を広める: 両生類や爬虫類に対する誤解や偏見をなくし、彼らが生態系の中で重要な役割を果たしていることを理解し、周りの人にも伝えることも大切です。
まとめ:両生類・爬虫類を守ることは、私たち自身の環境を守ること
両生類や爬虫類は、私たち人間の活動によって静かに数を減らしています。彼らが生きやすい環境は、水や空気、土壌がきれいな、人間にとっても暮らしやすい環境です。彼らを保護する取り組みは、私たち自身の生存基盤である自然環境を守ることでもあります。
この解説を通じて、日本の両生類・爬虫類に迫る危機について理解を深め、身近な自然や生物への関心を持つきっかけとなれば幸いです。