日本の絶滅危惧種は法律でどう守られている?種の保存法の役割
なぜ絶滅危惧種を守るために法律が必要なのか
私たちの身の回りには、様々な生き物が暮らしています。しかし、開発や環境の変化により、多くの生き物が絶滅の危機に瀕しています。これらの貴重な生き物を守り、未来へ引き継いでいくためには、個別の努力だけでなく、社会全体で取り組むための仕組みが必要です。その役割を担うのが「法律」です。
日本では、絶滅の危機に瀕している野生動植物を保護するために、いくつかの法律が定められています。その中でも中心的な役割を果たしているのが、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」です。一般的には「種の保存法」と呼ばれています。
「種の保存法」とはどのような法律か
種の保存法は、1992年に制定された日本の法律です。この法律の目的は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を図ることにより、生物多様性の保全に寄与すること、そして自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保と地域社会の健全な発展に資することにあります。
この法律は、単に絶滅しそうな生き物の捕獲などを禁止するだけでなく、その生き物が生きていくために必要な生息地や生育地の保全、そして数を増やすための取り組みなども定めています。
種の保存法で守られる生き物たち
種の保存法によって保護の対象とされるのは、「国内希少野生動植物種」や「国際希少野生動植物種」に指定された生き物です。
国内希少野生動植物種
国内希少野生動植物種は、日本国内に生息・生育する野生動植物のうち、絶滅の危機に瀕している種の中から、政令で指定されたものです。環境省が作成するレッドリストなどを参考に、科学的な根拠に基づいて選ばれます。
例えば、特別天然記念物にも指定されているニホンライチョウや、沖縄県に生息するヤンバルクイナなどがこの国内希少野生動植物種に指定されています。これらの生き物は、種の保存法に基づき、厳重に保護されています。
国際希少野生動植物種
国際希少野生動植物種は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)」という国際的な取り決めによって国際的な取引が規制されている種のことです。象牙で知られるゾウや、ワニ、トラなどが含まれます。種の保存法は、これらの国際的に希少な種の国内における取り扱いについても規制することで、国際的な絶滅危惧種保護にも貢献しています。
種の保存法の主な規制と保護の仕組み
種の保存法には、指定された希少な生き物を守るための様々な仕組みが盛り込まれています。
行為の規制
国内希少野生動植物種に指定された生き物に対しては、原則として以下の行為が禁止されています。 * 捕獲、採取、殺傷、損傷 * 生きた個体やその器官、加工品などの譲渡し、引き渡し、陳列、広告、販売目的での運搬など
これらの規制は、違法な採取や取引から生き物を守るために非常に重要です。許可なくこれらの行為を行うと、罰則が科せられます。
生息地・生育地の保護
生き物を守るためには、その生き物が暮らす場所を守ることが不可欠です。種の保存法では、国内希少野生動植物種の生息地や生育地のうち、特に重要な区域を「生息地等保護区」として指定することができます。保護区内では、開発行為などが厳しく制限され、生き物が安心して暮らせる環境を維持するための取り組みが行われます。
保護増殖事業
絶滅の危機から回復させるためには、単に捕獲を禁止するだけでなく、数を増やしていく取り組みが必要です。種の保存法に基づき、国内希少野生動植物種ごとに「保護増殖事業計画」が策定されます。
この計画では、生息地・生育地の整備、人工的な繁殖(飼育下繁殖)、そして繁殖させた個体を野生に戻す野生復帰など、具体的な保護・回復のための事業が定められます。例えば、ニホンライチョウの飼育下繁殖や、コウノトリの野生復帰などが、この保護増殖事業として進められています。
法律の役割と私たちの関わり
種の保存法は、日本の絶滅危惧種を守るための強力な柱です。法的な規制によって、無秩序な採取や開発に一定の歯止めをかけ、保護区の指定や保護増殖事業によって、積極的に種の回復を目指すことができます。
しかし、法律があるだけでは十分ではありません。絶滅の危機に瀕している生き物を守るためには、私たち一人ひとりが問題意識を持ち、理解を深めることが重要です。法律の存在を知り、なぜそのような規制や事業が必要なのかを理解することは、絶滅危惧種保護への第一歩となります。
身近な自然に興味を持ち、地域の絶滅危惧種について調べてみることも、法律の枠を超えた大切な行動です。法律は基本的なルールを定めますが、その精神を生かし、実際に生き物を守っていくのは、私たち自身の行動と意識にかかっています。
種の保存法をはじめとする様々な取り組みによって、日本の豊かな生物多様性が未来へ引き継がれていくことを目指しています。