日本の絶滅危惧種保護を支える国際的な枠組みとは
日本の絶滅危惧種保護は国際的な課題でもある
日本の豊かな自然には多様な生物が生息していますが、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。これらの絶滅危惧種を守るための取り組みは、日本国内の努力だけでなく、世界規模の協力によっても支えられています。生物は国境を越えて移動したり、地球全体の環境変化の影響を受けたりするため、国際的な連携が不可欠なのです。
このセクションでは、日本の絶滅危惧種保護に関連する主な国際的な枠組みについて説明します。
生物多様性条約(CBD):地球上の多様な生命を守るための世界的な約束
生物多様性条約(Convention on Biological Diversity, CBD)は、地球上の多様な生物とその生息環境を守ることを目的とした国際条約です。1992年に採択され、日本を含む多くの国や地域がこれに参加しています(これらの国や地域を「締約国」と呼びます)。
この条約には主に三つの目的があります。 1. 生物多様性の保全 2. 生物多様性の構成要素の持続可能な利用 3. 遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分
日本はこの条約の締約国として、国内で生物多様性を保全するための計画を立て、実行する義務を負っています。日本の「生物多様性国家戦略」は、この条約に基づき、国内で生物多様性を守るための具体的な行動目標や施策を定めたものです。
生物多様性条約の締約国会議(COP)では、世界の生物多様性保全に関する重要な決定がなされます。例えば、2010年に名古屋で開催されたCOP10では、愛知目標と呼ばれる20項目の国際目標が採択されました。これらの目標は、2020年までに生物多様性の損失を止め、回復させることを目指すものでした。現在は、ポスト2020生物多様性枠組(昆明・モントリオール目標)に基づき、新たな目標達成に向けた取り組みが進められています。
ワシントン条約(CITES):国際取引による絶滅の危機を防ぐ
ワシントン条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora, CITES)は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」と呼ばれる条約です。この条約は、野生動植物の国際取引が過度に行われることによって絶滅の危機が高まることを防ぐことを目的としています。
ワシントン条約では、取引を規制する対象となる野生動植物をその絶滅の危険度に応じて三つの附属書(リスト)に分けています。 * 附属書I: 絶滅のおそれが最も高い種で、商業目的の国際取引は原則禁止されています。 * 附属書II: 現在は必ずしも絶滅のおそれはないものの、取引を厳しく規制しなければ絶滅のおそれが出てくる可能性のある種。取引には輸出国または輸入国の許可が必要です。 * 附属書III: 特定の締約国が自国内の種の保護のために他の締約国の協力を必要とする種。
日本はこの条約の締約国として、条約の規制対象となっている種の輸出入を管理しています。日本の種の保存法は、このワシントン条約と連携し、国内における希少な野生動植物の保護や取引規制を定めています。例えば、海外の特定の爬虫類やランの仲間などが、ワシントン条約によって国際取引が規制されており、日本への持ち込みも許可が必要になります。
ラムサール条約:湿地の保全を通じて絶滅危惧種を守る
ラムサール条約(Convention on Wetlands of International Importance especially as Waterfowl Habitat)は、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」です。この条約は、湿地の保全と賢明な利用を進めることを目的としています。
湿地は、水鳥だけでなく、多くの魚類、両生類、昆虫、植物など、多様な生物にとって重要な生息環境です。絶滅危惧種の中にも、湿地に依存して生きている種が多く存在します。ラムサール条約に登録された湿地は、国際的に重要な湿地として保全されることになり、そこで暮らす絶滅危惧種の保護にも繋がります。
日本では、釧路湿原(北海道)や藤前干潟(愛知県)など、多くの重要な湿地がラムサール条約に登録されています。これらの湿地の保全は、そこに生息するタンチョウやシギ・チドリ類の仲間など、絶滅の危機にある生物を守る上で非常に重要な役割を果たしています。
その他の国際的な枠組み
上記の主要な条約の他にも、絶滅危惧種保護に関わる様々な国際的な協力や枠組みがあります。例えば、特定の渡り鳥の保護を目的とした二国間協定(日本とアメリカ、ロシア、中国、オーストラリアとの間の協定など)や、国際自然保護連合(IUCN)によるレッドリストの作成(日本のレッドリストもIUCNの基準を参考に作成されています)などが挙げられます。
また、違法な野生生物取引(IWT)は、多くの絶滅危惧種にとって深刻な脅威であり、これに対抗するためには国際的な捜査協力や情報共有が不可欠です。
まとめ:日本の絶滅危惧種保護と世界との繋がり
日本の絶滅危惧種保護は、国内の努力に加え、生物多様性条約、ワシントン条約、ラムサール条約といった国際的な枠組みと密接に関わっています。これらの条約は、地球規模での生物多様性保全や持続可能な利用を目指しており、日本もその一員として責任を果たしています。
渡り鳥のように国境を越える生物や、国際的な取引の影響を受ける生物を守るためには、世界各国との連携が不可欠です。日本の絶滅危惧種を知り、その保護について考えることは、同時に地球全体の生物多様性保全という大きな課題について考えることにも繋がります。私たちの身近な自然環境が、世界とどのように繋がっているのかを理解することは、生物多様性保護の重要性を改めて認識するきっかけとなるでしょう。