日本の絶滅危惧種レッドリスト:危険度を示すカテゴリーとは?
日本の絶滅危惧種リスト、レッドリストのカテゴリーについて
「絶滅危惧種」という言葉はよく耳にするかもしれませんが、絶滅の危機にある生物の状況は一様ではありません。環境省が作成する日本の絶滅危惧種のリスト、通称「レッドリスト」では、それぞれの生物が置かれている危険の度合いに応じて、細かくカテゴリー分けがされています。
このカテゴリーを理解することは、それぞれの生物がどのような状況にあり、どのような保護が必要なのかを知る上で非常に重要です。ここでは、環境省レッドリストで使用される主なカテゴリーについて解説します。
レッドリストの主なカテゴリー解説
環境省レッドリストでは、生物の絶滅の危険性を評価し、以下のようないくつかのカテゴリーに分類しています。これらのカテゴリーは、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストの基準を参考にしつつ、日本の状況に合わせて定められています。
絶滅(EX: Extinct)
「絶滅」カテゴリーは、すでに地球上から完全に姿を消してしまったと考えられる生物が分類されます。過去に日本国内に生息していたことが確認されているものの、長い間生息情報がなく、専門家によって徹底的な調査が行われても発見に至らなかった種がこれに該当します。
例えば、ニホンアシカやニホンオオカミなどがこのカテゴリーに含まれます。
野生絶滅(EW: Extinct in the Wild)
「野生絶滅」カテゴリーは、かつて生息していた野生の環境ではすでに絶滅してしまったものの、動物園や植物園などで飼育・栽培されている、またはそれらから再導入された個体群のみが現存している生物が分類されます。
日本では、ミヤコタナゴという魚などが野生絶滅のカテゴリーに分類されています。これは、人の手による保全活動のみで命脈が保たれている状況を示しています。
絶滅危惧I類(CR+EN: Critically Endangered + Endangered)
「絶滅危惧I類」は、近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高い生物が分類されるカテゴリーです。このカテゴリーはさらに二つの亜カテゴリーに分けられます。
- 絶滅危惧IA類(CR: Critically Endangered): ごく近い将来に野生での絶滅がきわめて危惧される種が分類されます。生息数や個体数が非常に少なく、その減少率が高いなど、絶滅の危険性が最も高い状態にある生物が含まれます。ヤンバルクイナなどがこのカテゴリーに分類されています。
- 絶滅危惧IB類(EN: Endangered): IA類ほどではないものの、近い将来に野生での絶滅の危険性が高い種が分類されます。生息地や生息数が限定されており、様々な脅威に直面している生物が多く含まれます。イリオモテヤマネコなどがこのカテゴリーに分類されています。
絶滅危惧I類に分類される生物は、喫緊の保護対策が必要とされています。
絶滅危惧II類(VU: Vulnerable)
「絶滅危惧II類」は、絶滅危惧I類ほどではないものの、野生での絶滅の危険性がある生物が分類されます。現在の状態をもたらした要因が続けば、将来的に絶滅危惧I類へと移行する可能性が高いと考えられる種が含まれます。ニホンザル(一部の地域個体群)などがこのカテゴリーに分類されています。
このカテゴリーの生物も、現状を維持あるいは改善するための保護活動が重要です。
準絶滅危惧(NT: Near Threatened)
「準絶滅危惧」カテゴリーは、現時点では絶滅危惧種ではないものの、生息状況が悪化する可能性があり、近い将来に絶滅危惧種として評価される可能性がある生物が分類されます。保護の手を緩めると、容易に絶滅の危機に瀕する可能性がある種が含まれます。
情報不足(DD: Data Deficient)
「情報不足」カテゴリーは、生息状況に関する情報が少なく、絶滅の危険性を評価するのに十分なデータが得られていない生物が分類されます。必ずしも絶滅の危険がないわけではなく、単に調査が進んでいないために評価ができていない状態です。今後の調査によって、絶滅危惧種に分類される可能性もあります。
絶滅のおそれのある地域個体群(LP: Locally endangered Population)
「絶滅のおそれのある地域個体群」カテゴリーは、ある生物種全体としては絶滅の危険性が低い場合でも、特定の地域に限定された個体群が絶滅の危機に瀕している場合に分類されます。たとえば、ある山の特定の集団だけが危機に瀕している、といったケースが該当します。このカテゴリーは、地域の生物多様性を保全する上で重要な視点を提供します。
なぜカテゴリー分けが必要なのか
これらのカテゴリー分けが行われるのは、生物の絶滅の危機には様々な段階があるためです。生息数の減少度合い、生息地の状況、直面している脅威の種類などが生物によって異なるため、それに応じて最も効果的な保護策も異なります。
カテゴリーを知ることで、どの生物が最も緊急性の高い状況にあるのか、どのような種類の危機に瀕しているのかを把握することができます。これは、限られた資源の中で効果的な保護活動を行う上で非常に重要な判断材料となります。
絶滅危惧種という言葉は同じでも、そのカテゴリーが示す意味を理解することで、それぞれの生物が直面している具体的な状況や、必要な保護への理解が深まります。