なぜ生物は絶滅の危機に瀕するのか?主な原因とその仕組み
絶滅の危機とは?生物が失われる理由
私たちの周りには、さまざまな生物が暮らしています。しかし、これらの生物の中には、数が大きく減り、絶滅の危機に瀕している種が多く存在します。日本の環境省が作成しているレッドリストには、危機的な状況にある多くの日本の野生生物が記載されています。
生物が絶滅することは、地球の歴史の中で自然に起こってきた現象でもあります。しかし、現在、特に多くの生物が短期間のうちに絶滅の危機に瀕している状況は、過去の自然な絶滅とは異なる側面を持っています。その大きな要因の一つとして、私たちの人間活動が挙げられます。
では、具体的にどのような原因が生物を絶滅の危機に追いやっているのでしょうか。主な原因とその仕組みについて解説します。
生息地の破壊・劣化
生物が生きていくためには、食べ物を得たり、繁殖したり、休息したりする場所が必要です。このような場所を「生息地」と呼びます。工場や道路の建設、住宅地の開発、森林の伐採、農地の拡大など、人間活動のために生息地が失われたり、質が悪化したりすることが、多くの生物にとって最も大きな脅威となっています。
例えば、湿地帯に生息する鳥や昆虫は、湿地が埋め立てられることで生きる場所を失います。森に暮らす動物や植物は、森林が伐採されることですみかを追われます。また、生息地が道路や建物によって細かく分断されてしまうと、生物が移動できなくなり、孤立して繁殖が難しくなったり、交通事故に遭いやすくなったりします。このような生息地の「分断化」も深刻な問題です(図1は生息地の分断化のイメージを示しています)。
過剰な採取・捕獲(乱獲)
特定の生物が、食用、薬用、観賞用、毛皮目的などで、自然からの採取や捕獲が過剰に行われることも絶滅の原因となります。「乱獲」とも呼ばれるこの行為は、生物が繁殖して数を回復させるスピードを上回るペースで行われるため、あっという間に数が減少してしまいます。
例えば、かつては豊富に存在した魚類や貝類が、漁獲量の増加によって激減したり、希少な植物が園芸目的で野外から大量に持ち去られたりすることがあります。法律で捕獲や採取が禁止されている生物であっても、密猟や違法な採取が行われる場合もあり、これも絶滅の危機を高める要因となります。
外来種の影響
本来その地域にいなかった生物が、人間によって他の地域から持ち込まれ、野生化してしまったものを「外来種」と呼びます。これらの外来種が、元からその地域にいた生物(在来種)に悪影響を及ぼすことがあります。
外来種は、在来種を捕食したり、餌や生息場所を奪ったり(競合)、遺伝的に近い在来種と交雑して固有の遺伝子を失わせたり、新しい病気を持ち込んだりすることがあります。例えば、特定の島に人間が持ち込んだネズミやネコが、島の固有の鳥類や爬虫類を捕食して数を激減させたり、海外から持ち込まれた植物が日本の野山に広がり、在来の植物の生育を妨げたりする事例が報告されています(写真はこの外来植物の一例です)。外来種は、その地域の「生態系」(生物とそれを取り巻く環境全体のつながり)のバランスを大きく崩す可能性があります。
環境汚染
大気、水、土壌などが、有害な物質によって汚染されることも、生物の生存を脅かします。工場や家庭からの排水、農薬、プラスチックごみなど、様々な種類の汚染物質が自然環境に流れ出たり蓄積したりします。
汚染物質は、生物の体内に取り込まれて病気を引き起こしたり、繁殖能力を低下させたり、食物連鎖を通じて高濃度の汚染が蓄積されたりします。例えば、農薬の使用が水生昆虫やそれを食べる鳥類に影響を与えたり、海洋プラスチックごみが海鳥や海洋哺乳類に深刻な被害をもたらしたりしています。水質汚濁は、川や湖、海に住む魚類やその他の水生生物に直接的なダメージを与えます。
気候変動
地球全体の気候が長期的に変化する「気候変動」、特に地球温暖化も、生物にとって大きな脅威です。気温や海水温の上昇、雨の降り方の変化、干ばつや洪水といった極端な気象現象の増加などは、生物の生息環境を大きく変えてしまいます。
特定の気温や湿度に適応している生物は、環境が変化すると生きていけなくなったり、新しい場所へ移動する必要に迫られたりします。移動できない植物や、移動速度が遅い生物は、環境の変化についていけずに絶滅の危機に瀕する可能性が高まります。例えば、高山植物は温暖化によってより涼しい高所へと生息域を移す必要がありますが、山頂にはそれ以上行けません。また、サンゴ礁は海水温の上昇によって白化現象を起こし、そこに依存する多様な生物にも影響が及びます。
まとめ
生物が絶滅の危機に瀕する原因は、生息地の破壊、乱獲、外来種、環境汚染、気候変動など、様々なものが複合的に絡み合っています。これらの原因の多くは、私たちの人間活動に起因しています。
絶滅の危機にある生物を救うためには、これらの原因を理解し、それぞれの問題に対して適切な対策を講じることが重要です。生息地の保全や回復、持続可能な資源利用、外来種の管理、汚染の削減、そして気候変動への対策など、私たち一人ひとりの意識や行動、社会全体の取り組みが、未来の生物多様性を守る鍵となります。生物多様性の豊かさは、私たち人間の暮らしにとっても欠かせない基盤であることを理解することが、絶滅の危機を回避するための第一歩と言えるでしょう。